発泡スチロール翼カッティングマシンの製作


1.はじめに
発泡
スチロールをコアにした翼を作ったことがありますか?
まず、ベニヤ材等で正確に翼型を切り出し、これを翼根と翼端の二枚作ります。 発砲スチロールをこの二枚の間に挟んで、あとは電熱線をベニヤで作った翼型にそってスライドさせていけば発泡スチロール翼の完成です。
私も挑戦しましたが、テーパーのきつい翼だったので、左手と右手のスピードコントロールがうまくいかずに、きれいにはできませんでした。 うまくカット出来るようになるには、相当の練習を覚悟しなければならないようです。
そこで、この作業を機械にやらせられないものだろうかと考えました。 翼型の座標データからベニヤ板で翼型を作るのも面倒です。座表データどおりにモータを動作させ、直接発泡スチロール翼を切り出そうという発想です。
2.システム概要
このシステムはメカ本体、モータコントローラ、電熱線コントローラ、パソコンから成り立っています。
メカ本体は垂直軸方向駆動用モータがボックスに取り付けられ、このボックスそのものを水平軸方向駆動用モータ動かします。この機構が左右にペアになっています。
ほとんどの計算処理はパソコンにて行うようにしました。 モータコントローラはパソコンからの司令で、4つのモータを1ステップ単位に右回り、左回り、停止という動作と電熱線のON/OFFをしているだけです。 パソコンとの通信はRS232Cにて行い、50msecごとに司令を送っています。 つまり、モータは20ppsで動作することになります。 ステッピングモータによる開ループ制御で、スタート前にホトセンサにて位置決めを行っています。 電熱線の送りは、ネジ送り機構とし、雄ネジをフレキシブルジョイントでモータシャフトに接続しています。ネジにはM6を用いているため、ピッチは1mmで、今回使用したステッピングモータの1ステップは7.5°です。 これから計算すると分解能は約0.021mmとなります。

モータ及び電熱線の駆動電圧は24Vとなっています。
3.仕様
カット可能な大きさ
・翼長 900mm MAX
・翼弦 230mm MAX
・翼厚 400mm MAX
4.メカ本体
(1)垂直方向の送り機構
この部分は家庭用コンセントボックスを利用しました。
Φ6のステンレス製ガイドバー2本がボックスに取り付けてあり、スライドする部分にはM6のナットが固定してあります。
ボックスの上部に見えるのがステッピングモータで、M6の送りネジをフレキシブルジョイントを介してダイレクトドライブしています。
モータはトルク約800g・cmのステッピングモータを使用しました。
写真では見にくいのですが、下の方に位置決め用のホトインタラプタが取り付けてあります。
このボックスが左右に1つずつあります。

(2)水平方向の送り機構
水平の送り機構は垂直方向の送り機構と基本的には同じですが、送る対象が上記のボックス全体となります。
水平方向も同じくホトインタラプタによる位置決めを行っています。
モータは垂直方向用のものと同じものを使用しています。
(3)電熱線
電熱線にはΦ0.2mmのニクロム線を用いています。
また、ある程度テンションをかけるためにバネで引っ張ってあります。
5.モータコントローラ
モータコントローラはパソコンからのコマンドに従って4つのモータそれぞれを右回り、左回り、停止と電熱線のオン/オフをさせています。
一回のコマンドにはモータ4つの回転方向と電熱線オン/オフの司令が含まれています。
回路基板には不要になったマイコン基板を改造して使用しています。
電熱線コントロール基板はモータコントロール基板上に搭載しました。
CPUは日立H8/3048です。
6.電熱線コントローラ
電熱線のパワーコントロールはPWMによるスイッチング方式としました。
このコントローラはモータコントロール基板に取り付けられていて、調節はボリュームによる手動としています。
電熱線の温度はモータの動きに追従できる範囲で、なるべく低く押さえたほうが切り口がきれいに仕上がるようでした。
また、夏と冬とで電熱線のパワーを調整する必要があるようです。
7.パソコン・ソフト
今回のシステムで最も時間をかけたのはパソコンソフトです。
翼型座標データは翼の付け根と翼端とで異なる翼型データを入力可能にしました。こうすることで翼型を翼根から翼端にかけて連続的に変化させることができます。
入力した翼型データが正しいかどうか直接確認できるように、翼型を描く機能も持たせました。
翼をカットする時、翼根と翼端とでモータの送りデータを操作することでテーパー翼、カット開始位置をずらすことで前進翼、後退翼にも対応することが出来ました。
発泡スチロールをそのまま翼として使うことは少なく、実際にはバルサプランクする場合が多いと思いますが、バルサプランクの厚さの影響で翼型が変ってしまいます。そこで、予めプランク材の厚さを差し引いたデータに変換する機能も追加しました。これでプランク完了時に目的とする翼型が得られます。勿論、プランク材の厚さを0(ゼロ)と入力すれば、プランク無しにも対応できる訳です。
翼型座標を回転させればねじり下げもできますが、実際にカットした翼はそのままではへにゃへにゃでプランクする時にねじり下げをつけられると思われましたので、今回は省略しました。
通常は右翼と左翼で1ペアとなりますが、左翼カット時は翼座標をソフト処理によって上下反転して対応しました。つまり左翼製作は右翼を上下反対にしたものを製作するというイメージです。
パソコンソフトのなかで一番問題になったのは、インターネットのサイトからダウンロードした翼型座標データに統一性がないことです。
具体的には、データの桁数、フォーマット、座標の順番(書き順)などがまちまちでした。
なんとか自動認識させようとしましたが、力及ばずでやむなく座標データは表計算ソフトを使ってデータを修正しています。
座標データはモータ分解能と比較して少ないので、点と点の間は直線補完を行っています。曲線補完が理想ですが、実際には座標点が50ポイントもあれば直線補完でも十分滑らかなようです。
カットは右翼の場合、翼の後縁から始めて上面、前縁、下面へと1周します。左翼は翼の後縁から始めて下面、前縁、上面の順となります。
8.まとめ
構想から製作完成まで、約4ヶ月ほどかかりましたが、当初の目的としていた物を作り上げることが出来ました。
欠点としては、メカにややガタがあるため、カットした表面に波打ったような跡が残りました。これは、表面をかるくサンディングしてバルサプランクすればあまり気になりません。
あと、カットにかかる時間ですが、1本の翼を切り出すのに約40分程かかります。これは、パソコンからのモータ駆動信号を送るタイミングが50msecであることによります。私のパソコン(CPUクロック160MHz程度)ではこれ以上速くするとモータ速度が一定しなくなったのでこのデータ転送速度としました。もっと処理速度の速いパソコンなら、短時間にカットできるでしょう。でも、セットするだけで、あとは昼寝でもしている間に発泡スチロール翼が出来上がります。カットに多少時間はかかるけどまあ、いいかな。
ネ! なかなかの出来でしょう。