形状合金アクチュエータによる飛行のビデオ映像を追加しました。
1.はじめに
形状記憶合金という物は、皆さんもご存知かと思いますが、この形状記憶合金をラジコンのサーボモータの代わりに使おうという試みです。
ここでは、インドア・プレーン用の重量数十g以下の超小型軽量機への搭載をターゲットにした形状記憶合金アクチュエータドライバを試作してみましたので紹介します。
2.バイオメタルについて
トキ・コーポレーションという会社から、バイオメタルと呼ばれている非常に細い繊維状の形状記憶合金アクチュエータが商品化されています。
バイオメタルには、いくつか種類があって、細いものは髪の毛よりも細く、重量も計測不可能なくらい軽く、これほど軽量のアクチュエータは他にはないのではないでしょうか。
バイオメタルは、加熱すると収縮する性質があるので、アクチュエータになるわけです。加熱は通常バイオメタルに電流を流してバイオメタル自身を発熱させます。
加熱を止めると、冷えてまた元の長さに戻りますが、戻すためにバイアス・スプリングと呼ばれるバネでテンションをかけておくのが普通です。(図1)
図1
バイオメタルは、加熱すると温度に応じて徐々に縮んでくれれば良いのですが、実際には、図2に示すように70℃以下ではほとんど変化せずに70℃を超えると急激に収縮し、それ以上加熱してもあまり収縮しません。全体で約4%収縮します。
また、ヒステリシスがあるため、サーボモータのようなリニアで滑らかな動きには不向きです。
つまり、縮むか伸びるかのオン/オフ制御に向いていて、少し縮めるとか少し伸ばすというのは苦手です。
では、サーボモータのようなリニアな動作は不可能かというとそんなことはなく、図3のようにポテンショメータ等でバイオメタルの収縮を検出して、フィードバック制御することでリニア動作も可能です。
しかし、この方法ではポテンショメータが重く、その軽量性が生かされません。
面白い考え方として、バイオメタルが伸び縮みすれば必ずバイオメタル自身の抵抗値も変化している筈なので、バイオメタル自身の抵抗値変化を検出して、フィードバック制御するという方法が考えられます。
また、バイオメタルには、バネ状のものもあり、これなどは、伸び縮みによって、インダクタンスが変化しますから、このインダクタンス変化をフィードバック制御するのも面白いかも知れません。あるいは、バイアス・スプリングのインダクタンス変化を検知してもいいはずです。
これらのフィードバック制御については、今後機会を見て取り組んで見たいと思っています。
バイオメタルの入手は、トキ・コーポレーションのオンラインショップで誰でも購入することができます。秋葉原では、千石電商で市販されていました。
図3
3.リンケージ
トキ・コーポレーションのホームページを見るとラジコンにも応用できそうな使い方が数多く紹介されていますので、是非ご覧になってみてください。
今回は、実験ということで、図4のように単純なリンケージでテストしてみました。また、制御についても前述のフィードバック制御ではなく、開ループPWM制御です。
バイオメタルBM1とバイオメタルBM2の一端を束ねてバイアス・スプリングで引っ張ります。バイオメタルBM1とバイオメタルBM2の反対側はラダーホーンの左右に接続する両引き構造としました。バイオメタルに糸を繋げれば、左右の糸の長さ調節でニュートラルが出せます。
バイアス・スプリングは、バイオメタルを購入した際に付属で付いているものを使いましたが、スプリングが強すぎるとバイオメタルを痛めてしまうので、10〜20gfの力で十分伸びるくらいのものが良いかと思います。バイアス・スプリングの固定位置は、無通電時に僅かにバネが伸びてバイオメタルに弱いテンションがかかる位が適当です。
使用したバイオメタルは最も細いBMF50で長さは50mmとしました。図の寸法でニュートラルを中心に左右約12度の動きが可能でした。もっと大きな舵角がほしかったのですが、構造上の作り方が悪かったせいかラダーホーンの糸接続ポイントを5mmより近づけても12度以上にはなりませんでした。バイオメタルの長さをもっと長くすれば、より大きなストロークが得られますが、今回はリポ1セルでも動作するという条件から、50mmとしました。
動画も見て下さい。 sa10ani.mpeg
図4
4.回路図
5.部品表
品名 | 品番 | 仕様 | メーカー | |
IC1 | マイコン | ATtiny15L | ATMEL | |
Q1 | トランジスタ | RN1202 | 東芝 | |
Q2 | FET | 2SJ196 | NEC | |
Q3 | FET | 2SJ196 | NEC | |
Q4 | FET | 2SK975 | ルネサス・テクノロジ | |
C1 | 積層セラミックコンデンサ | 0.1uF/25V | ||
BM1〜2 | BMF50 | Φ50μm バイオメタル・ファイバー | トキ・コーポレーション |
6.回路の説明
コントローラーには、ATMEL社のATtiny15Lというマイコンを使いました。
Q2〜Q4のFETは、ゲート電圧が2.5Vでドライブできて、ドレイン電流500mA以上のスイッチング用のもので極性さえ合っていれば、何でも使えます。
バイオメタルBM1とBM2のコモン(図4のバイアス・スプリングが接続されている端子)から電線を引き出してQ4のドレインに接続します。
BM1とBM2のもう反対側の端子はそれぞれQ2、Q3のドレインに接続します。接続用の電線は、バイオメタルの動作の妨げにならないように
できるだけ細い電線を使って下さい。
ニュートラルは、パルス幅1.5msecに設定してあり、この状態ではBM1、BM2ともにほとんど電流が流れない状態になっています。リンケージが終わって、舵が曲がっていたからといって、送信機側でニュートラル調整をすると通常でもBM1又はBM2に電流が流れた状態になるだけでなく、舵の左右の動きがアンバランスになるかも知れません。ですから、ニュートラル調整は、図4のバイオメタルの長さ、又は糸の長さで行なって下さい。
回路の動作電圧は、2.7〜5.5Vとなっていますが、これは、マイコンの動作可能電圧を示しているだけなので、電源電圧5.5VだとBMF50(50mm)がオーバーヒートしてしまう恐れがあります。バイオメタルの長さは、リポ1セルでの動作を基準にしています。(2.7〜4.2V) もし、BECから安定した5Vが供給可能であれば、BM1、BM2の長さをもう少し長くできるかも知れません。(ストロークが大きくなる。)
7.マイコンプログラム
自作する方は、マイコンにプログラムを書き込む必要があります。
下記ファイルをダウンロードして、解凍後にできるsa10v10.hexというファイルをマイコンに書き込んで下さい。
書き込みを行う際に、プログラムメモリの最終番地(0x1FF)のローバイトにOSCキャリブレーションデータを書き込んで下さい。
sa10v10.zip
設定
・FUSE bit (10101100B)
BODEN:0
BODLEVEL:1
CKSEL0:0
CKSEL1:0
RSTDISBL:0
SPEN:1
・LOCK bit (11111111B)
LB1:1
LB2:1
8.バイオメタル使用上の注意点
・加熱して収縮しようとするバイオメタルを無理に拘束するとバイオメタルが切れたり、劣化したりします。また、大きな負荷をかけても同様のことが起きます。着陸時に舵が地面と接触するとバイオメタルに無理な力が加わるかも知れません。バイアス・スプリングは無理な力を逃がす役目もあるのです。
・バイオメタルを加熱し過ぎると劣化して収縮しなくなります。
・ラジコン飛行機に搭載する場合、地上テストで動作しても、飛行中はバイオメタルが風を受け、強制空冷されて温度が下がり、動作不良になるかも知れません。ですから、地上テストではプロペラを回して、バイオメタルに風を当ててテストして下さい。さらに悪条件として、バッテリー電圧低下時(3V)も考慮して下さい。逆に風が当たっていない状態で舵を大きく切るとバイオメタルが発熱し過ぎて劣化するかも知れません。このあたりが、バイオメタルを使う上で難しいところです。細いシリコンゴム・チューブなどが入手できれば、バイオメタルに被せ、風よけにしても良いかも知れません。
・前述の強制空冷された状態でバイオメタルの収縮が起こらないようであれば、バイオメタルの長さを少し短くしてみて下さい。ただし、ストロークはその分小さくなります。
・バイオメタルは、マグネット・アクチュエーターより大きな力を出すことができます。それでもサーボ・モータと比べると2桁位小さな力しか出せません。ですから、ヒンジの構造に注意が必要です。私は、OHPシートを幅1mm程度に切って使っています。
9.最後に
今回の試作品はまだ実験段階で、実際に機体に搭載して試してはいませんが、扇風機で風を当てても、とりあえず動作しています。
バイオメタル自体は大変軽いのですが、カシメ端子が重いので、改良の余地大です。また、バイアス・スプリングも重いので、細いピアノ線をU字型に曲げたもので代用できます。このあたりは、メーカーの人よりアマチュアの人の方が奇抜なアイデアが出るかと思います。
できるだけリニアな動きになるように、PWM制御を曲線的に変化させていますが、サーボ・モータのように微妙な操作はあまり期待はできないようです。でも大丈夫、プロポがまだなかったその昔、シングル・サーボやエスケープメントとかいう一定舵角しかもたないサーボもどきのアクチュエータでも、立派にラジコン機は飛んでいたのですから。
今後は、制御回路をプリント基板化する予定です。部品も面実装品を使えば、重量は、0.んgになるかと思います。
10.参考
形状合金アクチュエーターによるインドアプレーンの飛行のビデオ。
sa10video.MPG