3.未来は決まっているのか?

3.3 

特殊相対性理論を認めていただき、ありがとうございます。
では、話を続けましょう。
光速は静止して測定しても走りながら測定しても同じということが事実だとすると、非常に奇妙なことが起きる。
その奇妙な現象を最も解りやすいとも思われる例で説明しよう。
下の図を見て下さい。


一両の電車の中にA君とB君がいます。
A君は車輌の前方、B君は車輌の後方に立っています。そして、車輌のちょうど中央にストロボ発光器が設置してあります。
A君、B君ともストロボ発光器が光ったのを見たら、手を上げることにします。つまり、ストロボ発光器から発した光が車輌の前方と後方に向かって進んで行き、A君、B君に達したところで手を上げてもらうのだ。
どちらが先に手を上げるだろうか?
「光の速度を考えるとどちらが早く手を上げるかなんて人間の反射神経の差でしかない」なんて思ってはいけない。これは、あくまでも思考実験なのだ。

まずは、電車が停止している場合を考えよう。
それでは、実験開始!


T0秒



T1秒後




T2秒後




T3秒後


結果は、A君とB君同時に手を上げました。
「こんな実験やらなくても、当たり前の結果だ」なんていう声が聞こえてきそうです。
確かに電車が止まっているので、当たり前の結果でした。

では、今度は電車が左方向に一定の速度で走っている場合に同じ実験をやったらどのような結果になるでしょうか?
この場合、2つのケースが考えられます。
1つケースは、電車の中でこの実験を観測した場合、もう1つケースはこの実験を電車の外から観測した場合です。
まず初めに、電車の中でこの実験を観測した場合について考えましょう。
この場合ですが、答えを先に言ってしまうと、A君、B君同時に手を上げるです。
何故か?
もし、あなたが電車に乗っていて、その電車には、窓がなく、外を観察できません。そして、走行中でも電車は全く揺れないとします。
あなたは、その状態で電車が走行中(等速直線運動)なのか停止しているのかはわからない筈なのです。
どんな測定器を持ち込んでもわかりません。
「真上にジャンプして、着地地点が後ろにズレれば電車は走行中だ」と思っている人はいませんか?
そう思っている人は、地球の赤道上で真上に滞空時間1秒のジャンプをして下さい。
間違いなくオリンピック走り幅跳びで金メダルが取れます。
何せ距離にして470mの大ジャンプだ。
だって、赤道上の地面は秒速470mで回転しているんだもん。
まあ、地球は回転運動だから厳密には等速直線運動ではないけど、それにしてもすごいスピードで我々は動いているのに、それを感じませんよね。
そればかりではない、地球は太陽の周りを秒速30kmというものすごい速度で回っているし、太陽は、秒速200km以上の速度で銀河の中心を回っている。そして、銀河自身もアンドロメダに向かって動いているのだ。
こうなると、「いったい自分は宇宙の中でどちらの方向にどのくらいの速度で動いているのだろうか」なんて考えますが、宇宙には中心なんてないし、絶対静止空間なんてないのだ。
裏をかえせば、等速直線運動(慣性系という)をしている場合、そこが静止していると考えてもいいのである。
電車の話に戻りますが、電車の中では、電車が走っていようと止まっていようと電車の中では全く同じ物理現象が起きる。だから、A君とB君同時に手を上げるのです。
でも、何かしっくりこないと感じる人もいるかと思います。
それは、次のケースが頭に引っかかっているからではないでしょうか?
そのケースとは、先ほどの電車が走っている時に行なった実験を電車の外から観察したらどうなるかです。
ここで、新たにC君に登場してもらい、電車の外からA君、B君の様子を観測してもらうことにする。
では、早速思考実験開始!


T0秒




T1秒後



T2秒後



T3秒後



あれーッ、B君が先に手を上げたのにまだA君は手を上げていない。
これ、絵がおかしいんじゃないか?
いえいえ、C君が見るとそう見えるんです。
だってB君は光に向かって進んでいるし、A君は光から逃げるように進んでいるから、B君に先に光が到達するのです。
絵では、電車の前方に向かう光が後方に向かう光より遅いように見えますが、電車が動いているので、もし光の速度を同じ長さの矢印で表現したら、前方に向かう光の速度は、電車の速度+秒速30万kmとなって、相対性理論の「光速は誰が計測しても同じ」という大前提が崩れてしまいます。
「それじゃー、相対性理論が間違っているんだ」という結論に逆戻りしないで下さい。
この現象について、もう少し詳しく見てみましょう。
電車がC君の前を通り過ぎていくとき、C君とA君、B君までの距離、見える角度が刻々と変化するのでわかりにくいかも知れません。そこで、C君は、すごく離れたところ(無限遠)から電車を見ているとしましょう。それなら、C君とA君、B君までの距離、見える角度は常に同じです。
それから、C君がA君、B君を観測するわけだが、ここでの観測とは「見る」ことだ。見るとは、A君、B君を出発した光がC君に到達して、初めて観測できる。だから、光の伝播速度による遅延が常につきまとう。これでも遅延時間を計算に入れれば、ちゃんと観測できるが、わかりにくいし、面倒だ。
そこで、ドラえもんのポケットの中からある装置を取り出すことにする。
名付けて ”タキオン・テレスコープ”。
この装置は、どんなに遠いところの様子もリアルタイム(遅延時間無し)に見ることができる望遠鏡である。
こんな望遠鏡は現実にはないが、話を簡単にするために登場してもらった。このタキオン・テレスコープをA君、B君、C君全員に持ってもらって、お互いを観察できるようにしておく。

では、今回の実験の結果をまとめよう。
電車が左に走っている時、電車の中ではA君、B君が同時に手を上げた。
それを外で見ているC君は、B君が先に手を上げ、遅れてA君が手を上げるのを観測した。
(注意 相対性理論の効果として、電車が進行方向に縮む現象があるが、ここでは無視する。)

同時に起きたことでも違う立場の観測者からは、時間差が生じることがあるのだ。
この時間差をうまく利用すれば、未来が見えるかも知れません。
もう少し考えて見ましょう。


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